久しぶりに「帯広の森」へ行ってみた。帯広に帰ってきてまもなく、一度だけ行った記憶がある。たぶん十年ほど前のことだ。帯広市民以外の人のために説明しておくと、市の西郊にあって、いくつものスポーツ施設が集まっている地域を指す。市民の植樹によって、四百ヘクタールを超す森が施設を取り囲んでいる。雨が降り続いて、ひんやりと湿った森のなかを歩いていると、せわしなくささくれだった神経が和らいでいくような気がする。見上げると朽ちかけたナナカマドの枝が目に入り、カメラを向けると、森の小径の向こうから自転車に乗った女の子が二人寄ってきた。「何をとってるの?」と不思議そうにきいてくるので、指先を頭上に向けて、「あの赤い実」と答えると、怪訝そうな顔をして去っていった。リスか野鳥でも撮っているのではないかと思ったのだろう。しばらく歩くと、「この森は昭和五十五年(1980年)の第六回市民植樹祭で植えられました」と記した案内板が立っていた。帯広の森は何年もかかって、段階的に大きく育てられた人工の森だということは聞いていたが、たまたま久しぶりに訪れた森の区画が四十年前に植樹されたところだということを知って、茫然と立ち尽くした。四十年前といえば、私は東京に住んでいて、勤めていた会社を辞め、アルジェリアに出稼ぎに行こうとしていた年だから。