〈私塾〉のようなものを立ち上げました。名前はまだありません。ずっと無名のままかもしれません。雲をつかむような塾です。
8月の19日に自宅で説明会を開き、翌週火曜の22日に第1回を開くことができました。毎週火曜の例会です。みなさん仕事がありますので、夜7時からの集まりです。今のところ5名の方に〈塾生〉としてご参加いだだき、この拙文を書いている段階(9月4日現在)ですでに2回の例会を数え、明日には3回目を迎えることになります。
雲をつかむような塾と言いましたが、有料でやっていますから(1回につき3000円)、もう少し詳しく説明する必要があるでしょう。この塾のコンセプトをあえて言葉にするなら、「翻訳と文学をめぐる塾」ということになるでしょうか。翻訳家・翻訳者を養成する塾なのか、と思われる方もおられるかもしれませんが、さにあらず、というか、そうなってくれればうれしいですが、翻訳家を養成することはそんなに簡単なことではありません。とりわけ北海道の地方都市である帯広でそれを試みるのはかなり困難を伴います。今回参加していただいた5人の〈塾生〉もそういうことを望んでいるわけではありません。
では、すでに2回を数えた塾の例会では、何をやっているのか?
塾の主宰者である私が出版社から依頼されて翻訳している作品を素材・材料として取り上げ、翻訳という作業がどういう工程を経て、一冊の本として世に送り出されるのかを、塾生の皆さんに身をもって体験していただくというものです。そんな塾の試みは、翻訳家を養成しようと試みること以上に無謀なのではないか? そのとおりです。発案・企画の私ですら、当初は危惧を覚えたほどです。
ところが、案ずるより産むが易しと言うべきか、最初の説明会のときにお集まりいただいた方々にそういうコンセプトを、あくまでも、たとえば、そういう内容の塾に関心はあるだろうかという形で提案してみたのです。すると、それはおもしろい! という反応が返ってきたではありませんか。それならば手をこまねいている理由はない。さっそく次の週から始めようということになったわけです。
ちなみに今回集まった5名の塾生のバックグラウンドはまったくまちまちです。いわゆる専業主婦と呼ばれる方もおられます(たぶん。詳しいことはお尋ねしませんので)。イタリア語や英語が専門という方もいます。精神科医の方もいます。共通するのはフランス語とフランス文学に興味があるということ。語学のレベルは問いません。文学や哲学、あるいは芸術、宗教など、文化一般に関心があるという方でもかまいません。重要なのは知的好奇心のようなものです。年齢も問いません。こういう多種多様な方々の関心をいつまで、どこまで惹きつけていられるか、講師役の私としてははなはだ心許ないところがありますが、今のところ手応えは十分です。
今のところは、目下翻訳中のローラン・ビネの第二作『コトバの七番目の機能』(La septième fonction du language)という作品を取り上げて、話を進めています。この作品は一九八〇年にパリ市内で交通事故で亡くなったロラン・バルトの死をめぐる小説です。あろうことか、著者はこれを交通事故ではなく、暗殺であるという仮説に立って一個の長編小説に仕立てあげたのです。この作品にはたくさんのテーマが含まれています。ロラン・バルトは文芸評論の世界に新たな地平を切り拓いた二十世紀を代表する知性とか呼ばれたりしますが、実際のところどういう作家、書き手だったのか。フランスの現代思想とはどういうものか。ひいてはフランス文学とはどんな文学であるか。フランス語とはどういう言語なのか。そして、文学とは何か・・・・・・。時と場合に応じて、積極的にどんどん脱線していく。出し惜しみはしない。というか、出し惜しみするほどのものは持っていないし、いつだって当たって砕けろの精神で生き延びてきたのだから、今回の場合もそれでやってみようじゃないか、それしかできないだろう。というわけです。
政治や経済の面でも、あるいは文化の面でも、先の見えない時代に突入した感があります。人間の築き上げてきた文明はどこに行こうとしているのかと問うこともできるかもしれません。でも、そんな大風呂敷を広げてみたところで解が見つかるわけがありません。小さな、具体的な手触りのある、人の顔が見える範囲で何かを立ち上げ、持続させること、そのなかでほのかな光が見え、手応えを感じられるならば、それを突き詰めてみること。この塾でやろうとしているのは、そういうことかもしれません。
参加をご希望の方、あるいは質問のある方は、下のコメント欄にその旨書きこんでください(メールアドレスを記入してください。これは公開されませんが、高橋には届くようになっていますから、コメントに対する返事だけでなく、メールでご返事することもできます)
こんにちは、
時折、サイトを読ませていただいております、神奈川県在住、翻訳を勉強中の主婦です。先生の教えを受けたいなあとおもっておりました。
図書館で本を借りていて先生の翻訳に出会いました。
オンラインでの講座を作っていただけたらとても嬉しいです。お宅に伺える生徒さんが羨ましい限りです。
それでは、突然で失礼いたしました。
シナノ
ご購読、およびコメントありがとうございます。
たいへん喜ばしいお申し出です。
現在、開講してちょうど1ヵ月です。地元にお住まいの六名の方の参加をいただいておりますが、みなさんたいへん熱心なので、講師役の私があたふたしております。内容、題材ともに試行錯誤の段階というのが偽らざるところです。
オンライン(たとえばスカイプ、フェイスタイムなど)による参加の可能性も模索しているところですが、現時点ではそちらのほうまで手が回らないというのが実情です。もう少しお時間を下さい。準備ができたら必ずご連絡します。
先生、お返事ありがとうございます!
フランス語の勉強を始めて何年にもなりますが、
翻訳の面白さに目覚めたのは二年前です。
独学で一年、あちこちの通信講座で勉強を始めて
一年半が過ぎ、読みたい原書だけが山のように溜まっております。
プロフェッショナルの方々の素晴らしさにも感銘を受けます。
開講を楽しみにお待ちしています。
シナノ
高橋先生、こんにちは
オンラインでの聴講が実現したら本当に素晴らしいと思います。
「翻訳と文学をめぐる塾」のことを読んで、そういう場所に身を置くことが出来たらどんなに幸せだろうと思いました。
わたしにはハードルが高い内容なのですが 末席でお話を聞くだけでも 有意義な時間が得られることだろうと。
あこがれの場所には、勇気を持って飛び込ばなくては行けないとは思いながら、どこにも行けず、一つ一つあきらめなければならない事が多い現実です。
もし、オンラインで参加出来ることになったらと思うと希望が湧き嬉しくなりました!
22日の写真、エノコログサの一種みたいですがどうでしょう?
別な呼び方をされていたでしょうか?
わたしもこの草に幼いころの思い出があります。
名もない花などないとは、昭和天皇の仰る通りでしょうが、
世の中には、名前があっても呼ばれない草花がたくさんあります。
今日はよい秋晴れです。路肩の草が枯れる準備をしてきらきら綺麗です。
阿部久美
エノコログサ、〈ウィキペディア〉で調べてみましたが、少し違うように思います。齢とともに、人の名、土地の名、ものの名前が深い霧のなかに沈んでいきます。嘆かわしいやら、悲しいやら・・・・・・。
それはともかく〈オンライン塾〉、実現すべく、詳しい人にきいてみることにしましょう。でも、現時点では〈塾長〉の頭がパニック気味なので、いかんともしがたいです。
(明日から東京出張で、日曜日に帰ってきます)
高橋先生
初めまして。
私、現在大学院博士後期課程1年に在籍し、アンリ・ミショーを研究している山本と申します。
手短に申し上げさせていただきますと、私の研究において、Henri Michaux →Roland Barthes→Nicolas Bouvier→Laurent Binet →再び現在Bouvier
と追跡する中で、高橋先生に辿り着きました。
高橋先生に質問をお許しいただきたく、ここにメッセージを記させていただきました。
高橋先生がBouvier からつながりLaurent BinetのHHhH のご翻訳、さらにLa septième fonction du langage もご翻訳なさることを知り、Michaux からつながる不思議な力を感じてなりません。
(実は私も、Barthes の事故は暗殺だったりしてね。。と2年前に想像(妄想)したのです。そしてそれはMaurice Merleau-Pontyが心臓発作で亡くなっていることにも絡む暗殺?…と。
(「妄想」の自覚はありますので、ご安心下さい)
私はまだLa septième…を読んでおらず(今日知りました)、メルロ=ポンティのことなども書いてあるのかどうかわからないのですが、本日Amazon.fr に注文し、高橋先生にも辿り着き、ご連絡差し上げましたしだいです。
私が教えていただきたいことは、「高橋先生がBinetの作品をご翻訳なさることになった経緯」でございます。お教えいただける範囲で構いませんので、どうぞよろしくお願いいたします。
(Bouvier を翻訳なさった高橋先生をBinet氏ご本人がご指名なさったのではないか、と私は想像したりしております。全て妄想です。)
Michaux 研究からBinet作品までに絡む一連の詳細は、先生の翻訳塾開講のお知らせのご趣旨とは違ってしまうため、本日はここで失礼させていただきます。
ぜひいろいろ教えていただきたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。
山本 緑
コメントありがとうございます。
たしかに不思議なつながりですね。最初にご質問にお答えします。
Binet作品を翻訳することになったきっかけは、東京創元社からの依頼で彼の処女作である”HHhH”の原書を読んでレジュメを書き、感想と評価を求められたことにあります。結果としては2014年の「本屋大賞翻訳作品部門」と「ツィッター文学賞・海外小説部門」の双方で第1位を頂戴することになりました(邦題も「HHhH、プラハ1942年」です)。その第2作が”La septième fonction du langage”です。
この作品には多くの哲学者、思想家が実名で登場しますが、なぜかMerleau-Pontyだけは出てきません。バルトもメルロ=ポンティも暗殺ではないかという大胆な「仮説=妄想」に翻訳者である私が簡単に与することはできませんが、壮絶な「討ち死に」ではあるだろうと思っています。Septème fonctionには、フーコーもデリダも出てきます(デリダはなんとアメリカで殺されてしまうという設定ですが)。彼らもやはり討ち死にでしょう。
残念ながら、現在は塾でこの作品を扱うのは中断しています。飛び込みの翻訳依頼が立てつづけに二作入ってきて、そちらをテクストにしているためです。この塾に取り柄があるとすれば、actualité にこだわることでしょうか。少々、お答えが長くなりすぎたようですので、今回はこのへんで失礼します。
高橋先生
お返事ありがとうございます。
また、私からの不躾な突然の質問にもお応えくださりありがとうございました。
これからも私のミショー研究に絡むBouvierやBinet 作品に関しまして、いろいろお教えいただければと存じます。
Septième fonction は私にとりましては難しそうですが、頑張って読みたいと思います。
翻訳塾を再開されましたら、ブログにて塾の皆様のご様子を拝読させていただければ嬉しいです。
私も遠くから出席している臨場感を持ちながら、勉強させていただきます。
本当にありがとうございました。
これからも、高橋先生のブログを楽しみに拝読させていただきます。
それでは失礼いたします。
山本 緑
高橋様
突然のメッセージ失礼します。
私、幕別町百年記念ホールで講座企画などを担当しております三石(みついし)と申します。
来年度の講座企画にあたり、まずは高橋様にお話を伺いたく
コメントしております。
詳しいお話はメールもしくはお電話にてお伝えしたく存じます。
お時間いただけるようでしたら、お返事を頂戴できれば幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
メールをお送りしましたので、そちらのほうで詳しい内容をご説明ください。
高橋様
突然のメッセージ失礼致します。
私、PHP研究所の熊本と申します。
高橋様が以前に翻訳されました書籍の著作物転載の件で
ご連絡を取らせていただきたくコメントをしております。
詳しいお話は、メールもしくはお電話にてお伝えしたく存じます。お時間いただけるようでしたら、お返事を頂戴できれば幸いでございます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。